ポーフィリアの恋人 Poem by Gaku Haghiwara

ポーフィリアの恋人

雨はこの夜早くから止むことなく、
 重苦しい風が続いて起きて、
苛立しげにニレの梢を引き裂く、
 湖上の懊悩最悪にして、
⁠聞いたこっちの心が堪らぬ。
ポーフィリアは滑り込むや、直ぐさま
 寒気と嵐を閉め出して、
ひざまずいて消えかかった火格子熾せば
 燃え上がり、小屋全体が温まる。
済めば彼女も立ち上がり、その身形から
外すは雫滴るマントとショール、
 汚れた手袋そばに置き、解くは
帽子、濡れた髪など落ちるに任せ、
 そしてようやく、側に座った彼女は
我に呼ばわり。声返らぬと見るや即ち、
我が腕を執りその腰に当て、
 滑らかな白い肩をむき出しにして、
黄色い髪をすべて掻き寄せ、
 腰を屈めて我が頬を横たえ、
黄色い髪を広げるや、
どれほど私を愛しているかと囁く。彼女は
 踏み切れずに在り、心の全て傾けてなお、
その足掻き続ける情熱を解き放つには
 高慢から、また見栄しがらみを切り離し、
その身とこしえに任せるには。
しかし時折情熱打ち勝つもあり、
 今宵の正餐なおとどまるに値せず
ふとした想いを寄すはこの青白きにあり
 つまり恋人へ向かうに、物の数ならず。
何しろ彼女、やって来たのは風雨のさなか。
気は確かなのかと目を見上げれば
 光栄に、なんと誇らしげ。漸く知れた、
ポーフィリアは我崇めりと。驚きが
 我が心を膨らます、これに至るや
何をすべきか自問自答を繰り返す。
その瞬間、彼女は我が物、我が、美人、
 完く純粋にして善良な。やっとわかった
やるべきことを。髪の全部を
 1本の長い黄色い紐にしてやった、
ほっそりした喉に3回巻き付けた、
して絞め殺す。苦しむこともないように、
 いや確かに全く、苦しんではいなかった。
閉じたつぼみがミツバチを受け入れる時のように、
 ごく慎重に瞼を開く。するとまた
穢れなき青い目が笑ってくれた。
次に解くは、髪の房
 首の回りの。その頬は今一度
紅く染まった、燃えるような我が口付けの下。
 我が頭を彼女に持たせ掛けたは先程、
この時ばかりは我が肩にしどけなく。
彼女の頭、もうずっと項垂れたまま。
 薔薇色に笑う可愛い頭、
最高の望みを叶えた喜びに沸く、
 しがらみ全てが一度に棄てられ、
そして我が愛を、代わりに獲たから!
ポーフィリアの恋。彼女は思いもよらなかったか
 最愛の人への願いがどう受け取られるかを。
そして今や、かくして二人一緒に座って、
 そして一晩中身動ぎもせず、
そして神なおも一言をも仰せ給わず!

This is a translation of the poem Porphyria's Lover by Robert Browning
Monday, October 5, 2020
Topic(s) of this poem: translation
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